AI-OCRを使うと、取引先ごとに形式が異なる請求書からも、請求元、日付、金額、税率ごとの消費税額、登録番号などの項目を抽出できます。AI-OCRによる項目抽出に、会計システム連携と照合ルールを組み合わせれば、手入力や確認作業を減らせる場合があります。ただし、読み取り結果をルールで検証し、合わない請求書だけを人が確認する工程を残すことが前提です。目標は「人の入力をなくす」ことではなく、「人は確認と例外処理に集中する」状態をつくることです。
この記事では、経理部門と情報システム部門の方に向けて、請求書処理のどこまでをAI-OCRで自動化できるか、インボイス制度・電子帳簿保存法を踏まえた業務の組み立て方、既製のSaaSと個別開発の選び方を整理します。
要点まとめ
- AI-OCRは、機械学習や生成AIを使って画像やPDFから文字と項目を読み取る技術で、帳票ごとに読み取り位置を設定する従来のOCRより、形式の異なる請求書に対応しやすい特長があります。
- インボイス制度(適格請求書等保存方式)は2023年10月1日に始まり、適格請求書には登録番号や税率ごとの消費税額などの記載事項が定められています。
- 取引先の登録番号が有効かどうかは、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確認でき、読み取った番号との照合を処理に組み込めます。
- 電子取引で受け取った請求書のデータは、2024年1月1日以降、紙に印刷して保存するだけでは足りず、データのまま保存する必要があります(2026年10月時点、国税庁資料による)。
- 生成AIを使った読み取りは、読めない部分をもっともらしく補うことがあるため、合計額と明細の整合性チェックなどのルールによる検証と組み合わせます。
AI-OCRで自動化できる請求書処理の範囲
| 工程 | 内容 | AI-OCRと周辺の仕組みでできること | 人が担うこと |
|---|---|---|---|
| 受領 | メール添付のPDF、紙のスキャン、取引先ポータル | 受信箱やフォルダからの自動取り込み | 紙の請求書のスキャン |
| 読み取り | 請求元、日付、金額、税額、登録番号、振込先 | 項目の抽出 | 確信度の低い項目の確認 |
| 照合 | 登録番号の有効性、発注・納品データとの一致 | ルールによる自動チェック | 不一致の原因確認 |
| 仕訳・登録 | 勘定科目・部門の割り当て | 過去の仕訳からの推定と登録 | 例外的な取引の判断 |
| 承認 | 金額や取引先に応じた承認ルート | ワークフローへの自動回付 | 承認 |
| 保存 | 検索できる形での保存 | 元データと読み取り結果のひも付け保存 | 保存ルールの管理 |
効果が出やすいのは読み取り・照合・仕訳の3工程です。手書きの請求書、複数ページにまたがる明細、値引きや返品を含む請求などは、例外として人が処理する運用が現実的です。
導入前には、月ごとの請求書の枚数、取引先の数、紙とPDFの割合、手書きの有無を集計しておくと、どの方式が合うか、どこまで自動化できるかの見通しが立てやすくなります。
OCRの方式による違い
| 比較の観点 | 従来のOCR(テンプレート型) | AI-OCR(機械学習型) | 生成AIを組み合わせた読み取り |
|---|---|---|---|
| 帳票の形式 | 決まった形式に強い | ある程度の違いに対応 | 多様な形式に対応しやすい |
| 事前の設定 | 帳票ごとに読み取り位置を設定 | 少なめ | 抽出したい項目の定義が中心 |
| 手書き文字 | 苦手 | 製品によって対応 | 対応できる場合があるが確認は必須 |
| 主な注意点 | 取引先が増えるたびに設定が必要 | 製品ごとに精度の差がある | もっともらしい誤りへの検証が必要 |
取引先が多く形式がばらばらな企業ほど、AI-OCRや生成AIを組み合わせた方法のメリットが大きくなります。
インボイス制度と電子帳簿保存法を踏まえた設計
- インボイス制度:2023年10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式が始まっています(国税庁 No.6498)。記載事項は国税庁 No.6625に定められているため、登録番号と税率ごとの消費税額を確実に読み取る設計にします。
- 登録番号の照合:読み取った番号を、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトの情報と照合する仕組みを組み込むと、目視での確認を減らせます。
- 電子帳簿保存法:電子取引のデータは、2024年1月1日以降、データのまま保存する必要があります(国税庁 電子取引関係)。AI-OCRで処理した後も、元のデータを要件に沿って保存し、読み取り結果とひも付けておきます。
保存要件には猶予措置などもあり、個別の適用は事業者の状況によって異なります。紙の請求書をスキャンして保存する場合の要件を含め、国税庁の資料や顧問税理士にご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・法的助言ではありません。
実装で精度を上げる工夫
エンジニアの立場から、精度と運用負担に効く工夫を挙げます。
- 電子PDFは文字情報を直接使う。会計ソフトなどから出力された電子的なPDFには、文字がデータとして含まれていることが多く、画像として読み取るより正確です。紙で届く取引先にPDF送付を依頼するだけで、誤りが減ることもあります。
- 検証ルールを重ねる。明細の合計と請求金額の一致、税率と税額の計算、登録番号の形式と有効性、発注データとの金額差を自動で確認し、合わないものだけを人に回します。
- 確信度の低い項目を強調する。AIが確信を持てなかった項目を画面上で目立たせ、担当者が重点的に確認できるようにします。
- 修正結果を記録する。担当者の修正を取引先ごとに蓄積し、ルールや設定の改善に使います。
- 過去の請求書で評価する。導入前に、過去の請求書を正解データにして項目ごとの正解率を測り、合格ラインを決めます。
このほか、実務で効く処理として、取引先マスタとの名寄せと重複受領の検知があります。請求元の名称は「株式会社」「(株)」などの表記ゆれが多いため、名称ではなく登録番号をキーに取引先マスタと照合すると、仕訳の誤りを減らせます。また、同じ請求書がメールと郵送の両方で届くことがあるため、請求元・請求番号・金額の組み合わせで重複を検知し、二重払いを防ぐ仕組みを入れておくと安心です。
SaaSか個別開発か 自社製品での経験から
請求書の受領から読み取り、会計ソフト連携までを提供するSaaSは数多くあります。導入の速さや法改正への対応状況は製品によって異なります。保存要件への対応範囲と更新方針を確認して比較します。一般的な経理業務であれば、まずSaaSを比較するのが合理的です。
個別開発を検討する価値があるのは、自社独自の基幹・購買システムと発注・納品データの照合まで連携させたい場合、注文書や検査成績書など業界特有の帳票もまとめて処理したい場合、処理量が多く従量課金の負担が大きい場合、データの保存場所やAIモデルを自社で選びたい場合です。読み取りはSaaSに任せ、照合と基幹システム連携だけを個別に作る組み合わせもあります。
ベトナム・ハノイを拠点とするAI開発会社NKKTech Globalは、ベトナムの中小企業向けに、AIによる請求書の読み取り機能と多言語の税務チャットボットを備えたクラウド会計SaaS「est-invoice」を自社で開発・運営しています。est-invoiceはベトナムの中小企業向け製品で、日本のインボイス制度への対応実績を示すものではありません。日本の請求書処理では、読み取り後の検証と人による例外確認を個別に設計します。
業務全体の自動化はAI自動化サービス、複数システムをまたぐ処理はAIエージェント開発、日本向けの体制は日本向けページをご覧ください。
よくある質問
AI-OCRの読み取り精度はどれくらいですか? 帳票の品質、形式のばらつき、手書きの有無、読み取る項目によって大きく変わるため、一律の数値は示せません。導入前に自社の過去の請求書で項目ごとの正解率を測り、検証ルールと人の確認を組み合わせた運用を前提に判断するのが確実です。
AI-OCRはインボイス制度に対応できますか? 登録番号や税率ごとの消費税額など、適格請求書の記載事項を読み取る設計にすることは可能です。読み取った登録番号を国税庁の公表サイトの情報と照合する仕組みも組み込めます。最終的な税務上の判断は、顧問税理士などに確認してください。
手書きの請求書もAI-OCRで読み取れますか? 製品や方式によっては読み取れますが、印字された請求書より誤りが出やすくなります。手書きの割合が少なければ例外として人が処理し、量が多い場合は試作の段階で精度を確かめてから判断するのがおすすめです。
次のステップ
取引先ごとに形式の違う請求書の入力に追われていませんか。過去の請求書数十枚をもとに、30分の無料相談後3営業日以内に、読み取りと照合を3〜4週間で検証するAI Pilot(USD 3,000から)の固定価格のご提案をお送りします。
ベトナムのシニアエンジニアが担当。スコープを明確にし、3営業日以内に書面でご提案します。

10 years of experience working with Japanese companies, including Toyota, Sony and Rakuten — two of those years based in Japan. Has run the business since 2018 (as NKKTech since 2025) with a senior-only engineering model.